例の土手を歩いて行く黒い影あり
時代錯誤も甚だしいトンビに下駄ばき、輝く髪は手入れの行き届いた丸いきのこ
まばゆい陽光に目を細めもしない無表情の男の名はマスノさん
桜辺医科歯科大学精神科非常勤のカウンセラーである
(トンビ:
辞書 参考資料)
しかし兄弟の街では、たまにやって来る屋台引きとして知られている
売り物は鯛焼きであったりタコ焼きであったり焼きそばであったり好き放題
基本焼くものなら何でも良い様子
メニューの脇に貼られた営業時間は
月水木が午前
火土が午後
金曜休みで日曜は夕4時まで
「何度読んでも理解でけへん」(兄)といった内容であるが、
そのまま裏返せば病院に居る時間になる
兄弟の街には彼の患者も多く
その様子を見に来ているのではと言う見解が多勢
性質は温厚かつ冷静、緻密にして壮大
そして何が起きても同じない鉄面皮を誇り
医師たちからの信頼も厚い
そんなマスノさんが一番気にかけているのは
同僚であったミウラでも
一向に生活を改めようとしない絵師でも
たびたび診察をすっぽかすもじゃもじゃでもなく
旧知の仲の小林であると言う
今や“白い男”となった友が
大地から離れよう離れようとするのを見過ごして置けないのだ
「他の皆には必ず誰かが居るだろう
君には誰も居ないじゃないか!」
マスノさんがそう声を荒げたのを聞いた病院の職員は
カウンセラーが患者の付添人を怒鳴ったことよりも
マスノさんにあんな声が出せたなんて、と驚いたという
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