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(小林、暗転板付き。上手の箱に座っている。
照明カットインと同時に小林顔を上げる)
「やあ、君か。近頃は、昼間も動いているんだな」
(立ち上がりながら頷く)
「そうだね。もう、えり好みをしてもいられなくなった」
(掌で箱を指し)
「掛けなよ。お茶でも入れよう。」
(小林中央へ一旦はける。そのまま台詞)
「何だ、見ていたのか。趣味が悪いな。目が利き過ぎるのも考えものだ。
いいや?今はもう別段気にしてはいない。あの時は確かに若干動揺はしたけど」
(小林戻ってくる。テーブルの上にカップを二つ置く仕種。下手の箱に座る。砂糖を入れたりする仕種をしながら)
「全ての対象、全ての異能を把握できるわけじゃない。だってそうだろう?そんなことが出来るのは神様だけさ。僕は神様じゃない」
(カップを持ち上げ、一口)
「香りが抜けて来てるな。まあ、白湯よりマシだと思ってくれ。ああ、悪くはないけどね、白湯も」
(カップを置く。上手の箱に向き直り、真顔で)
「誰が何をしようと僕は構わない。誰が生きようと死のうと、僕は構わないんだ。だから、誰がどんな力を持ってても、それは僕には何の関係もない」
(言い切った後、間。一転笑顔で)
「バーカ当たり前だろそんなのー焦ってるよォー大いに焦ってるよ気が気じゃないよ!!」
(膝を浮かせて手を打つ、そして真顔に戻る)
「僕はいいんだ。でも、彼を脅かすものであるなら見過ごすことはできない」
(しばし間。後うなだれて)
「ああ…確かにそうすべき…なんだろうな。実際、僕にはそれだけの力がある。危険だと思われる存在を、全てこの手で排除できたら、それが一番なんだろう」
(顔を上げ)
「でも僕はそれをしない」
(決意から無表情、そしてうちひしがれた顔。膝に手を置き、頭を垂れる)
「できないんだ。正確には、したくない。面倒なんだよ。なにもかもが」
(間。席を蹴って立ち上がり、仰々しく手を広げて)
「ああそうさ!やろうと思えば何でもできるよ!皆殺しにしてやれるさ!寄り集まってるところへ火の球を投げ込んでやることだってできる、一人一人腑を熔かしてやることだってできる!僕は魔法使いだ、神にだって使えない魔法が使えるんだ!」
(荒い息、俄かに肩を落し、箱に座る。カップを両手で包む)
「でも僕は、こんな世界に生き残りたくはなかった…何度も言うようだけどね。僕が生きていたい世界は、どれだけ環境が悪化していようと、どれだけ人の心が荒んでいようと、ホンを書いて舞台に立てる世界だ。僕の作ったコントで片桐が動き、僕の作った芝居で客が笑う、そういう世界だ。君と大喜利だってしたい、時々雑誌の取材を受けて有り得ないほど男前に撮ってもらいたい。人気なんか万人になくたって構わないんだ、そういう世界で生きていたかった」
(カップを軽く揺する。寂しげな笑み)
「こんな世界では生きていたくない。例え僕の才能という資源がこの宇宙から消失するという人類への損失を考えても、」
(手を止め、無表情で)
「本当なら今すぐにでも消えてしまいたい」
(間。力無く笑う)
「そうなんだ。僕には責任がある…だから僕だけ逃げ出すわけには行かない」
(飲み干す)
「結局同じ話になってしまうな。済まない。愚痴を言う相手も、他に居ないから」
(間。頷く)
「わかってる。あそこも、ここも、然るべき決着がつくだろう。程なく。生き残った者が、どう動くか」
(立ち上がり、窓を覗く仕種。背を向けたまま)
「何をしようと構わない、大局に興味はない。ただ」
(振り返って)
「此処へ来るようなら、“そのようにする”。それだけさ」
(間。静かに頷く)
「君のやり方に口を挟むつもりもないよ。ただ、たまにこうして訪問してくれると有り難いな。何せ、知人が減ってしまったから」
(上手側へ数歩)
「ああ、わかってる。僕だけじゃない、誰も逃げ出すことはできない。――もう、舞台は始まっているんだからね」
(フェイドアウト)
(中央から片桐駆け込んでくると同時にカットイン)
「けーんたろー」
「やあ、こっちに来るとは珍しいな、どうした?」
「べーつにー?何となく来たかったから来てみたー」(上手側を見)「あれー誰かきてたのー?」
(小林微笑んで)
「いいや?ただの鳥だよ」
(照明カットアウト)
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