・大破壊後の目次は
こちら
・誰も待っていなくても書きたいから書きたいものを書く。でもまとまらないからラフのまま送信。おかまいなしだ!
・ロザンの口調はこれから勉強して書き直すから今はこれで勘弁してネ
・あと感想久々にもらえてひじょうにうれしい。うれしい。
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・「まだ物資が豊富な頃ですわ、この壁を」菅は壁であった名残の部分を平手で打ちながら「発破でドーン!やったりましてん。そんでこう、行け行けにね」
隣のビルの地下まで拡げた空間は、体育館ほどあった。
そこに機材や大きなロッカー、そして寝台が幾つも並んでいる。
「多い時は20人くらい居ったかなあ」
「一度に最大は24人やったな」宇治原はしきりに膝の上の書類を繰りながら応える
ランディーズの二人が寝息を立てている手前、点滴に繋がれて岡田が寝かされていた
先程まではしきりに呻いていたが、しばらくしてから静かになった
「力もろた、力ってどういうことや」宇治原はしきりに首を捻りながらデータの解析に余念がない様子
菅は濱口優を横目で見て悪戯に笑った「俺はむしろこの方を調べさしてもらいたいわ。理知的に、科学的に、数字的な根拠が」言いながら手を打つ「せや、濱口さんなら話せるや知れへんな?」
「どうやろな、その波長のどうたらはお前の担当やろ」
「せやから実験や、リアルなデータ頂かして頂こ!な、自分今ココ一人で大丈夫やろ?」
「大丈夫なんちゃうか…『力もらった』んやから」
菅は白衣の裾を翻して今にも駆け出さんとする「兄さんたちこっちですこっちです。――驚かんといて下さいね」
「誰かて驚かはるわ」宇治原の苦笑を背に一同階段を降りていく
「足元気ぃつけて下さいね。元は駐車場ですねん、落盤でほとんど塞がってますけど」
行き着いた先で小さな体が防火ドアを押し開けると、微かな匂いが
「何やこれ」「…酒か?」
崩れたコンクリートに囲まれるような空間、蛍光灯がその物体を煌々と照らし出している
あまりのまばゆさに巨大な鏡面のように思われた
それは水槽だった
水族館にあるような、顔を動かさねば左右が見渡せない大きさ
一見した瞬間に濱口は吸い寄せられるように一歩踏み出した
同時に背後で田中が頭を押さえて後ずさる
藤井は水槽の中、その向こう側を凝視している
その様子を見守るしかない増田の前で、濱口が水槽に両手を着く
瓦礫に足を取られ尻餅をついた田中が叫ぶ「もういやや、こんなんもういやや!何で、何でこんなことなんねん!」
そして二人は同時にその名を呼んだ
「ホンコンさん」
呆然とする増田に菅が語りかける
「死んでるわけちゃいますよ。わかるでしょ?こうなってはるだけです。大好きなお酒の中に溶けてはるだけなんです」
増田以外は耳に入っていない様子だということに苦笑を隠さず続ける「コレ積んだトレーラーが暴徒に襲われた時、助けに入ったんがホンコンさんやったらしいんですよ。ただまあこの水槽どないして運んで来たか聞きはぐりましたけどね。ずいぶん減ったんですよこれでも。この現象はね、理知的にある程度説明できる思てるんです。物質の形態、分子構造が変化しただけで」
「いややもういやや!何でみんなヒトやなくなっていくねん!何でみんなこないなってしまうねん!」田中が泣き叫ぶ
「刺激強すぎましたかね」頬を掻きながら「けど意思もある、カタチがちゃうだけですよ?」
こちらを見ずに頷く濱口「何を言うてるかはわかれへんけど、声は聞こえるで。いや、音やあれへんけど…」
「波長の合う人間とは意思の疎通が出来るみたいなんですけど、まあその波長言うのを科学的に追究せなあかんと僕は」
話が長くなりそうな菅の白衣のポケットで呼び出し音
「久々にチャンピオンのお出ましです、オーバー」
無線機に「了解」と応じ、噂をすれば、と菅は八重歯を見せて笑う
何かが倒れるような音に身を震わせる一同
その後はゆっくりとした引きずるような足音が階段を降りてくる
そしてよろめきながら姿を現したのは福田充徳
目は淀み、顔色は“悪い”と一言では言い尽くせない程で、頬はこけながら浮腫み、太っているとも痩せているとも形容できない
しかしおぼつかぬ足取りは行く先だけははっきりと一直線に、うずくまる田中の脇を通り抜けて水槽へ向かう
「ようチャンピオン、どないでっか調子は」
菅の呼び掛けを当たり前のように無視し、設えてあった台に上る。そして迷いなく升を手にとり、『それ』をすくって飲み下した
「おい、やめろや!」
咄嗟に叫んだ増田に「合意の上です」と菅は首を竦めた
徳井を連れて此処へ逃げ込んで来た時に福田はホンコンさんから直接呼ばれた
――ジブン酒呑まんと居られへんのやろ。せやったら呑め、俺を呑め
――代わりに約束せえ。俺を“アレ”んトコへ連れていけ
水槽の中身が僅かに波立つ。繰り返される升の動きとは符合しない波紋だ
「怒ってる怒ってる」菅は一切隠さずに笑う「グズクズしてるからや」
「なあ、相方の具合、どないや?」
「あのままや」先輩後輩の口調ではない。泥酔して座った目をわずかに動かし「悪くはなってへん」
9回繰り返された升の往復の後、福田が袖で口を拭うのを待って濱口が言葉を発した「福田君な」この事態を目の当たりにしながら一切の怯えがなかった「俺ら一緒に東京帰ろ思てんねん、福田君もな」
言葉の終わりを待たずに福田は台から降りて歩き出す
よろめいて藤井と肩がぶつかるが「除け」ゆっくりと、だが躊躇なく押し退けるその力に藤井驚いた顔
「俺は他の誰とも組む気はあれへん」
静かになった水面
言葉を失う一同
今一度肩を竦め、見えないように顔を背け苦笑する菅
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