・庄司が料理に真剣に取り組むようになった切欠は、礼二からこんな話を聞かされたからだった
・「最初にここ来た時、まだ顔色悪かってな、ガリガリやったわ二人とも。
そいでな、聡に何食いたいて聞いたら『やきめし』と。
したら具は何入れたろ言うたら『なると』。
そしたらラーメンは何入れたろ言うたら『ちくわぶ』と。
亮に言うてんジブン何食わしてんねんてな」
・兄はとにかく食べさせることで精一杯で、栄養状態や偏食の影響まで気も手も回らなかった。
そして庄司は庄司でボンボン育ちゆえに、出された物を食べるという意識しかなかった。
食べる物を考え、栄養を積極的に摂取するという認識に到ったのは
この『なるとちくわぶ事件』からであった。
・実際、出来合の物を適当に調理する分には、庄司の腕もそれほど悪くなかったのである。
現在は栄養面と弟の偏食を考慮しながら奮闘するために、ちょっとおかしなことになってしまっているのだ。
・それでも弟は、少々キテレツな出来上がりでも庄司の手料理を嬉しそうに食べる。
温かい物を、兄と庄司と共に食すことが幸せなのである。
その事実に気付いた時、庄司は弟が“飢えていた”ことを知った。
同時に、兄が必死になりながらも“飢えさせていた”、そして本人もそれに気付いていたことも知った。
庄司は二人の前で涙を隠そうとしなかった。
その日を境に、兄弟の庄司への信頼は揺るがないものになった。
・でも弟は今も炒飯にはナルトを入れてほしい。
「ぐるぐるしててたのしいもん」
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・おしらせ
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