兄弟篇についてご存知ない方はまとめページからご覧下さい
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・日頃ぬるい雨しか降らないこの街に雪の予報が
弟は朝からずっと空を見上げている
「風邪ひくで」「家であったかくしてなきゃダメだよ」と言い残し兄と庄司が出掛けた数分の後、弟もマフラー巻いて外へ駆け出した
・知った顔を見かけて駆け寄る「れーじさん!」
「あ?何や?向こう行っとけジャマジャマ」手で追い払う仕草
「………」小首を傾げてちょっと考える「あの、あの、なんかににてるわきょうのおっちゃん」
弟が言いたかったのは『ロシア人のオバチャンの服装』だ
「まあええわ、なあ、ゆき、ふるかな?」
「知らんがな。けど降る言うてるからこないしてチェーン巻いてんねやろが、ほらいらんこと言うから絡んだやないかッ」キー!
・チャーハンの店から出てくるもじゃもじゃ
今日の風体:児童向け特撮ヒーローのプリントの入った肌着(乳首の下ギリギリまで、もちろんキツキツ)+紫に金のラメの入った厚手の布の襟巻き(つぶれたスナックのカーテンをガメて来た)+たまご色にショッキングピンクのボーダーのゆるいハーフパンツ(婦人向けのルームウェアの売れ残り)+黒のゴム長
当然のように総身に鳥肌を立てているが超笑顔で「おーぅさーとしぃー」
「もじゃもじゃー!なにこうたん?」
「中華まんの外っかわだけさぁー!」抱えた袋から鷲掴みでもぎり「はい!やる!」
「わーふかふかやー…けどまっしろやな」
そこへ自転車急ブレーキ「ああ間に合うた!お早うございます!」汗だくの巡査
「おーう裕ちゃん待ってたーはい裕ちゃんの分ー」鷲掴みでもぎるもぎる
「あーありがとうございますー」食らい付く巡査「んまいれふー」
「おまーりさんいっつもこんなんくうてんの?」
「むは。いや、たまにであります!たまに、ご相伴に預かるんであります」白いの握ったまま敬礼
「じゃーねー」袋から湯気モクモクたてながら去っていくもじゃもじゃ
手を振りながらも白い生地をみつめる弟「けどほんままっしろやね」
「噛むんです!ずっと噛むんですよ!甘いから!幸せになりますよホンマに!具なんか要らんのですよこれホンマは!」
「そうなん…?」
・コンビニでカレーパンもカレーまんも切れていて店員とモメた隙にBを見失ったA
わざわざGPSで追うほどでもないと思いながらも、やや焦りながら次のコンビニへ移動
その際公園で空を見上げる弟を発見
Bが付近に居ないことをいぶかしんでいると、「あ、目ぇのおっちゃんや」たちまち気付かれる
「その、何でアタシにそんなにすぐ気付くんですかね、教えておいてもらえると有り難いんですが」
「かちゃかちゃいうやん」ライダースジャケットのファスナー、ボタン…?
冷静を装いつつちょっと胸を押さえたりファスナーを上げたりするA「そうすか」
「なあ、ゆき、ふるかなあ?」
「降る…んじゃないすかね、こんだけ寒いんだし」ふと見遣ると弟手が真っ赤だ「ちょっと、その手、どうしたんです」
「てあらってんそこで」公園の蛇口「たべるまえとあとにはてぇあらわな」
「…で、ちゃんと拭きました?シモヤケんなりますよ」
「あー、わすれてた」にこにこ
ザ・やれやれの顔でポケットから薄い革手袋を「貸しますよ。見てらんねえ」
「ええの?すごい!“かいじん”みたいや」
「返して下さいよ、高いんですから」立ち去りながらちょっと考えて「…怪人?」
・絵師は寒いのでコタツでねこと寝てる
礼二からの電話にも出ない
食事も一日一食になってひたすら眠る
ある種の冬眠である
・土手を走っていく白いマフラー+黒手袋
橋の上で佇む白い男(帽子+とっくりセーター+ズボン+スニーカー+コート+手袋:全部白)
「しろいおっちゃーん」
「やあ」ちらりと手袋に目をやるが「今日も元気そうだ」
「うん、げんきやで」欄干から身を乗り出して空を見上げ「なあ、ゆき、ふるかなあ?」
背中をやんわりと掴んで引き戻しながら「降るでしょうね、匂いがします」
「におい?ゆきってにおいすんの?!」
「しますよ。降る前も、降った後も」若干陶酔した表情で「雪は、好きだ…何もかも…白く染め変えてくれる…同じ地上じゃないみたいに…」
「けんたろ―――!」ゴム長ガバガバ鳴らして走ってくるあいつ「探したじゃーん!もー、居ろよー、どっかにぃー!」そして鷲掴みで「はい!おま・たせ!」
「待ちかねたよ友よ」手袋を外して受け取り、食らい付きながら「それれはひつれい」
去っていく奇人二人を見送る弟
・その頃公園ではBが滑り台の上で泣いていた
「何で…何でそういうことすんの…?!」
「しょーがないでしょう、手真っ赤だったんですよ!」
「だってだって潤俺の気持ち知ってるじゃん?それをさ、何で…」
「居ないアンタが悪いんでしょうが!」
「おしっこくらいしたいときあるでしょ潤だって!」
「そりゃありますよ人間ですもん!けどアンタはあの子を好きで尾行してんでしょうが!」
「好きでもおしっこは出るじゃない!」
「アンタ自分が何言ってるかわかってますか?!」
「わかんないよ!わかんないよ、だって今あの子は潤の手袋…」
「もう本当いい加減降りて来なさいよ!どんだけ目立ってるかわかってます?!」
「わかんないしわかりたくもないから!」膝を抱えてオイオイ泣く
・買い物袋を両手に下げて帰ってくる庄司
「うわ!何でこんなトコに居んの?!」
「あ、おかえりしょー兄」
「家に居なきゃダメじゃん!」
「にもつもつわ」誤魔化すつもりで「もつわもつわ」
振り切って「風邪引いたらどうすんのー早く帰らなきゃ」
「ふりだすとこみたいねんもん」
「ふりだすとこ?」
「ゆき!ふりだすしゅんかん!みたいねんもん」
・そして庄司は弟にしっかり着込ませ、自らは台所に「手羽を煮込むからね今日はぁー!コラーゲーン!」料理し始めると目が飛ぶ
・すっかり日も落ち、街灯に温みを探すように蛇行しながら帰ってくる兄
白く浮かぶマフラーに歩を早める
弟は暗い空を見上げたまま「兄ちゃんおかえり」
兄もつられて見上げる
弟の頭にぽんと手を置きながら「おかえり」兄の白い息と入れ替わるように、遂に雪が舞い始める
「あ、ちゃうわ、ただいまや」