・大破壊後の目次は
こちら
・『ミニ』なんてものを許すか?許せない方はここまで。ばぁい。
・まあ「追記編纂予定メモ」みたいなものだ。
・傍らの小沢は泣き止む気配がない。もう10分以上になるだろうか。携帯も時計もなくなった世界で、時間という単位がどれほどの意味を持つものか、井戸田は虚ろに視線を泳がせた。
原型を留めている遺体は、流石の小沢も見慣れただろう。そうでないものは、努めて視界に入らないように立ち回ってきた。小沢もそれは理解している筈だ。庇われている弱虫の自分を自覚しながら、気付かぬ振りをしている。実際、それが互いにとって最良であった。
初めて小沢が自ら見つけてしまったもの。故に、判別してしまったのだ。“それ”が知人であることに。
「もうやだ、オレもうやだ」
革のパンツの膝に額を押し当て、子供じみた泣き方を隠そうともしない。
「こんなのやだ、何でこんなことになったんだよ、もうやだこんな世界」
答えず、傷の手当を始めた。襲われずとも、移動するだけでも傷だらけになる。そういう世界だ。少しでも安全かつ効率的な移動手段を、早急に確保しなければならないだろう。
思案していると、不意に小沢が嗚咽を止めた。思わず片眉をわずかに上げて見遣る。
「オレのせいかもしんない」
真っ赤な目でこちらを見ている。冗談を言っている顔ではない。『ばれないような顔で嘘を付く』時の顔でもない。
「オレもうやだって思ったの、前、こうなる前に、何度も思ったの。もう何か、ヘンだって思って、こんなんだったら、なくなっちゃえばいいのにって思ったんだよ。好きな人はさ、生き残ってさ、イヤな人とか、イヤなこととか、そういうの全部なくなっちゃえばいいのにって。それが、こんなことになったのかも」
「頼もしいじゃありませんか」歪みそうになる表情を、笑みの形に押し留めて、相方を見据えた「思っただけで、叶うもんなら、どんだけいいでしょうね、オザーサン」
思えば自分の方こそ、どれほど子供じみていたことか。小沢と同じ事を考えた。その上で、そう考えることから逃げたのだ。ヘンだと思うことから目を逸らし、その中に取り込まれていく自分を考えないようにして生きてきた。
やり残した事どころではない。こうなるより前に、考えておかねばならない事が山ほどあった。全ては、取り返しのつかないところにある。
「そういうイカした力は、アタシの為に使って下さいよ。概ね今後アタシは、世のため人のために働くつもりですからね」
手首を強く握った。戦く様を、僅かな震えをねじ伏せるように、強く握った。
「消えて無くなりゃ楽でしょうけどさ。今度は多分、そうもいかない。そう何度も逃げたんじゃ、男が廃るってモンでしょ。ねえオザーサン」
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