・寝床から送信したもの。僕のやってることもいよいよメチャクチャです
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・後輩の一人から、『それが、そこにある』ことを聞いた。
亮はその言を窘めたのだった。『その人が、そこに居る』と言い直すように。
その後輩は謝罪の言葉の後、間もなく息を引き取った。
もう少し柔らかい言い方をすれば良かったと、亮は今もなお悔やんでいた。
・目の当たりにすれば確かに、それはそこにあった。
しかし、干からびた皮膚を微かに軋ませて亮を振り返ったのは、紛れも無く人格と高い誇りを維持した人間だった。
・黒い穴だけになった目から表情というものを読み取ることは不可能だった。
それでも、乾き切った声帯を震わせて絞り出す挨拶には、辛うじて好意を感じることが出来た。
ミイラと膝を突き合わせて対話をするのが初めてである亮にとっては有り難いことだった。
・「おいらはここから動けなくなっちまったけどサ。しょうがねぇよなァ、そんだけ年だったってコトだろナ」
皮膚が骨格に落ち窪んで乾き、よじれたままの姿勢で相手は話を始めた。
亮はこれがどういう仕組みなのかを常に頭の隅で考えていたが、生半可な推測が纏まるよりも早く相手は話し続けた。
饒舌さも、時折肩をすくませる癖も、まるで変わりない。ただ、その動きの度に亮は僅かに肝を冷やした。このまま『壊れてしまった』としたら、大変な事だ。
・そんな心配を余所に、かすれた声は続けた
「今聞いたトコじゃあ、おいらの知ってることで、お前さんの知らないことは…なかったなあ。つまりそういうことダロ。今俺ぁ、動けないんだもの。むしろこっちが教えてもらいたいくらいだよ。
ただおいらは、お前さんの考えてることよりかは、悪ぃ方へ転がるとは思うけどナ。
まあ干物の言うことなんざアテにするモンじゃないか」
言い終えると、数千年前の遺跡から発掘されたようなミイラは、うっすらと顎を開いた。
それが破顔を意味するものだと悟り、何故か亮は涙が浮かぶのを感じた。
・話の終わりに、亮は最も気にかけていたことを尋ねた。
「さぁなぁ」
意外な答えに、亮は問いを重ねたが、返事は変わらなかった。
「博士と玉がどっかそのへんをウロウロしてるってのは聞いたけどナ…あとはわからないよ。確かに俺は殿だったし、あいつらは軍団だった。けどそりゃ『前』の話だよ。『今』じゃないんだ」
・「お兄ちゃんよ。忘れんじゃないよ、今は今だ。お兄ちゃんの考えてる通り、それぞれが何かを変えようとしてる、けどホントのトコは変わりゃしない。それを忘れたら、嫌な目に遭うぜ」
そして、大先輩たる相手は、息子ほども年の離れた訪問者の名前をど忘れしたことを詫びた。
亮は慌てて姓名とコンビ名と所属事務所とを告げ、基本中の基本たる挨拶を忘れていたことを詫びた。
「頭上げていいよ、亮。悪ぃのはおいらだもの。何せこの通り、老いぼれちまって」
そう言って乾いた顎は今一度開かれた。
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