どせいさんの かくればしょで ごじます。 ぽえーん。



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 ここから買ってもらうと
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・兄弟篇についてご存知ない方はまとめページからご覧下さい

・お兄のきちがいめぐり
・暗い

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 早く寝れば早く起きられるという摂理は絵師の中では既に都市伝説に近い
 前提としての『早く寝られなさ』を秒針とともに数えながら、絵師は身を起こした

 こたつの上に散乱しているサプリメントと薬品の山を見つめる
 説明書きに禁忌とされている併用の中からどれが最も効果的かを考える事にも飽きてしまった。錬金術でも始めたか、という礼二の言葉があまりに的を射ていた

 結局今夜もいずれ今朝になり、そして自分の体は昼頃ようやく根負けするということだ

 こんな夜の思考は良からぬ方向へ偏曲し続け、たどり着く先は無力感から絶望感、最終的には俺なんか去んでまえ感に至るのは判り切っている。判り切っていてもなお留めることができないのは正に世の常だ

 恐らく同じような夜を過ごしているであろう同士に思いを馳せた
 仲間が居たところで離れ小島で互いに見えない手旗を振っているようなものだから何の力にもなりはしないが、気を紛らわせるには悪くない
 相手に失礼だと思わないでもないが恐らくは相手も俺を同じように思い起こしているだろうから

 不動産屋の具合はますます悪そうだ
 日頃は明るく振る舞っている分余計に気にかかる
 何せ二度の“前科”がある男だ、その一度は心停止までして相方の人工呼吸で黄泉の淵からようよう舞い戻った
 あいつが川っペリに立っているだけでぞっとしない気になるものだ
 この街の顔見知りから人死には出したくない
 そう言えば昔はこんな風には思わなかったものだ。死にたい奴にはそれだけの理由がある、死なせてやるのも一つ温情ではないかと
 この変化の理由はどこにあるだろう、うっすらと意識したが脇へ押しのけた
 突き詰めて思考するのがひどく面倒だった

 自死の対極にあるのが哀れな後藤だ
 今夜は久々に冷え込んでいるが、それでもあいつは全てのドアを開け放した部屋で寝ているのだろう
 押し入れの中で実の親から罵声を浴び続けて過ごした数年の間、あの少年は他者への不審と閉所恐怖、そして生への執着をその胸で育て上げた
 世の中は恐ろしい、でも俺は絶対に死にたくない
 そう思えている限り、あいつはきっといつか世の中に光を見出だせるだろう。生きたいのは何かを得たいからだ。
 その何かを、恐ろしいばかりの世の中で見つけ出す。その瞬間にあいつの世界は恐怖の対象から克服すべき相手に変わる。そうなったなら、あいつはきっと克てるだろう。押し入れであいつは強さをも得たはずなのだ

 亮と聡の隣人はどうだろうか
 あいつは恐らくこちら側へは戻っては来まい。カタギリと言う男はあのベランダから飛び降りて死んでしまったのだ、いまああしているのは“向こう側”が透けて見えているようなものなのだろう
 ただ“向こう側”にも恐怖が存在するのは不幸な事だ。いっそ全てを忘れて踊っていられれば良いのに
 そう、死後の世界は楽園などではないのだ…

 そして思い至った
 誰かを、誰をも死なせたくないと思うのは、死んで救われる事などないからだ
 死ねば当人は無になる。死体となり遺骨となり、それは物体でしかない
 むしろ遺された者に酷い目を見せることになる
 悔い、悲しみ、それは消えようのない痛みだ

 そしてその思いの果てに一人の顔があった
 こんな風に思うようになったのは多分、聡と話すようになってからだ
 あの子を傷つけるわけにはいかない、どんな理由であってもあの子を泣かせるわけにはいかない
 だってそうだろう、あの子さえ居れば、あの子と同じ世界に居れば、いつかどうにかして救われる筈なのだ

 意識の後ろで睡魔が踊っているらしかった
 まだ肉体には作用しない、ただ酩酊のみをもたらすタチの悪いものが
 絵師は布団に入り直し、冷えた肩を敷布に押し付けるようにした

 けどもしも
 あの子が救ってくれなんだら
 あの子に嫌われたら
 さぞかし辛いやろなあ

 あの子にも「あんな連中居らなんだらええ」と思うようなことはあんのやろか
 あの子も「あないなこと言う奴は嫌いや」と思うようなことはあんのやろか
 俺もそういう相手に成り得るんか?俺は聡に嫌われるような人間か?

 聡は強い子や
 亮も強い、せやから聡も強いねや
 俺は弱い
 俺は弱いし、ダメな兄貴や。亮とは違う

 俺は救うてもらわれへんのやろか
 俺にはそんな資格あれへんのやろか

 絵師が眠りに落ちたのは朝の8時を回ってからだった
 暖をとりに来た一匹の猫が、絵師の頬の滴の匂いを確かめ、傍らで丸くなった
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