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白い男曰く
「全てに絶望してしまいたいんだ
そうすれば、希望を探そうとせずに済むだろう」
マスノさん曰く
「君が希望って言葉を忘れていないとわかって良かったよ」
焼き豆腐の表面だけを残し
中をほじくるように食べている白い男
「その有様は丁度君の人生みたいだな」マスノさんため息混じりに「敢えて面倒な道を選んで…それでもなお汚れないものを追い求めようとしている
生豆腐を買って食べれば済むことなのに、君は僕が焼いた物を食べんとする。中華料理屋でもそうだ。君は敢えて料理人に手間をかけさせて、彼等の作った物を食べんとする。
君は人の料理が食べたいんだよ、面倒な真似をしてでも」
「僕自身へのテストなのかも知れない
そこまでして、この世界に留まりたいのかどうか」
「その答えは既に出ているじゃないか」
「それに翻意したいんだ。もし僕がこの暮らしの中で何らかの希望に触れているのだとしたら、それを忘れ去りたい
森羅万象が絶望に覆われていたなら、どれだけ楽かと思うよ
端から希望なんか存在しない、悪夢のように終わりのない世界なんだと思いたいんだ」
「でも君は食べることを辞められないだろう」
「死ぬことはできないんだ、肉体的には…それには明確な理由があって…僕自身では変えられない
だから魂の死を望む
彼はどうして僕の魂も消し去ってくれなかったのかと思うよ
彼を怨みに思うとすれば、それだけだ」
「彼って言うのは、誰のことだい」
白い男は答えずに、橋を渡って歩み去る
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