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・アパートの駐車場の脇に植え込み
建った時から小さなツツジなどが植えてある
・いつしか世話をする羽目になっている白い男、剪定鋏を持って難しい顔
弟が遠巻きに見ている
・「きってまうの?」
「そうだね」ほとんど葉のない枝を鋏む「もう、駄目だろうから」
「けど、つぼみついてんで」
「少しはね」剪定の手は休めずに「でも、正常には咲けない」
・「見てご覧」鋏んだまま、枝をかざす「酷い虫だ」
やや顔を歪めて「うん」
「葉をほとんど食べられてしまった。この虫は、付かせてしまっては駄目なんだ。付かないように、防除しなければならない。防除、わかるかい?ふせぐ、ってことだ」
・「一度付いてしまったら、薬じゃ落とせない。ほとんど一晩で葉を食べられてしまう。樹液も吸い取られて、中に卵を産み付けられてしまう。そうなったら、もう駄目なんだよ。
新しい葉も出て来る。こうして蕾も出て来てはいる。でも、もう駄目なんだ。侵された枝をこのままにしておけば、いずれは幹ごと枯れてしまう。
だからこうして切ってしまって、幹から本当に新しい枝が出てくるのを待つか、そうでなければ」
「そうでなければ?」
・「なあ、しろいおっちゃん、そうやなかったら、どうなんの?」
白い男は答えない
弟、怖じ気づいたように「ほなな」去っていく
・鋏を動かしながら一人ごちる
「付かせてしまったら、もう駄目なんだよ」
鋏の先を見ているようで、ひどく遠くを見ている白い男
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