夕暮れの店内
カウンターの端にノートPCを持ち込んでいる弟
CDROMを積み上げているが、その脇に顔を伏したまま動かない
上アニDSを片手に焼き上がっためんたまトーストを携え背後の席にドスンと腰を下ろす
「英坊ちゃん寝るんだったらお家お帰りよ」
「寝ない」
不機嫌そうに切り返されるが意に介さずかじりつこうとする
「上さんよ行儀悪いで。ゲームすんねやったらパン置きなさい」
「逆でしょおフツー」
とりあえずDSを閉じる
カウンターを拭きながら軽くモニタを覗く下アニ「オトウトちゃん昼から何してんの?何も進んでへんように見えるけど」
「バックアップ。さっきも言ったでしょ」声が弱々しいのは俯いているからだけではない「やる気が出ないんです」
「いいじゃんやる気出ない時は何にもしなくてさ」テーブルの上をパンくずだらけにしながら「休んでたらいいじゃないの」
「僕が休んでたら兄さんたちにはできないだろ」調子の悪い時特有の苛立った声「それに僕はやりたいんだよ、やりたくないわけじゃないんだ、僕にはそんなに時間がないんだから。でも力が出ないんだよ」
「残しとかなきゃ消えちゃうだろ。僕のしてきた仕事も、この店の帳簿も、溜まったビデオテープも、何だってそうだよ。バックアップ取って置かなきゃ消えちゃうんだよ?なくなっちゃうんだよ?何も残らないじゃないか。それは存在しなかったのと同じことだよ。同じ死んでいくにしたって、そんなことには僕は耐えられないんだよ!」
叫ぶように言い切って再び顔を伏せる。その拍子にCDが数枚山から崩れる。
キッチンに戻った下アニが手を洗い、水を止める。
それきり無音。
4枚切りの1枚を食べ終えた上アニ、卓上と腹の上にたまったパンくずをひとしきり床に払い落とす
そしてDSを開きながら「俺のアタマん中には残ってるけどなあ、英知のバックアップ」
食器を拭きながら視線を送る下アニ、弟も後頭部が僅かに動く
「クリック一つでコピーとかはできないけどっさー…簡単には消えちゃわない感じのやつがしっかり残ってっけどねえ」
ゲームのBGMに混じって弟の鳴咽が聞こえ始める
PR