どせいさんの かくればしょで ごじます。 ぽえーん。



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・ふぃくしょんですのだ。
 『大破壊後』の過去ログを ごさんしょうするといいです。そうです。

―――――

 菅広文は川の辺に悠然と歩を進めた。
 川とは言え今や僅かに動く汚水でしかないが、長らく地下に篭って居た身には多少なりとも気分転換になる。

 本来ならば今頃は、流れに沿って某かの花が咲き始めている筈だが、頭上にあるのは月と星だけだ。
 “だけ”と称するには余りある、散りばめたと言うよりぶちまけたような星々。変調を来たしているのは我等が地球だけで、天を進む御一同は平常運行している。
 大破壊の後の空は常に暗雲に覆われているが、数週間に一度こうやって隙を見せる。菅と宇治原は既にその周期を割り出していた。

 だからこそ、こうして悠長に散歩に出ることができるのだ。通常ならば明け方近くになると有毒物質を含んだ風がそこかしこに吹き溜まる。退廃的な暴徒でも、夜半過ぎには根城に戻るようにしている程だ。もっとも、暴徒の数も日に日に減る一方だった。

 白衣のポケットから煙草を取り出し、手元を見ないまま火を着けた。
 香りが抜けているどころではなく、カビ臭いだけのそれを苦笑しながら吸い込む。
 煙草を商業的に生産できるようになるには、どれくらいの年月が必要だろうか。土壌の浄化の以前に、汚染されていない種や苗が残っているかも定かではない。
 どの道、その日まで生きていることはないだろう。改めて苦笑しながら、大きく吐き出した。少なくとも今は、持っている者を探して、そいつから入手するしかない。今までそうして来たように。

 機材、衣類、食料、医薬品。あらゆる手段で手に入れて来た――
 そう思い返して三度苦笑した。『あらゆる手段』ではない。ほんの数種類、おおよそ2つか。たったそれだけだ。
 著しい苦痛と恥辱を伴ったが、すぐに慣れた。今となってはよく思い出せない。何しろ必死だったのだ。作り笑いすら浮かべることが出来なかった。殊に相方の負傷以降は、ほとんど寝ずに駆けずり回った。薬を手に入れては駆け戻って相方の看病をし、また闇市へ飛び出して行く。よく倒れなかったものだ。

 一切に後悔はない。そうしなければならなかった。他には何も出来なかった。
 与えられた能力、才覚を活かしているだけだ。異変の前と同じように。張り付いたような作り笑いを振り撒くことに苦痛と恥辱を感じていた頃と、そう大して変わらない。
 あの頃には「精神的売春だ」と罵られたこともあった。全く言い得て妙ではないか。
 四度目の苦笑と共に、長く伸びる月の影に吸い殻を放り捨てた。こうした行為を責める視線など、既に周囲にはないのだ。

―――――

 藤原一裕は不意に差し込んだ光を追って空を見上げた。破れた屋根から月が覗いている。雲が切れたことにも驚いたが、目に映る光景にも動揺した。月とはあんなに小さかっただろうか。そもそも、自分はどれだけの間、月を見ずに過ごして来たのだろうか。
 頭が重い。首が酷く痛む。

 食料も水も、寝床もある。この世界にあっては『何不自由ない』と言える状況なのだろう。文句を言える筈はない。
 だが、この暮らしは苦痛でしかない。続けていく自信がない。つまり、もう生きていたくないということだ。

 小さく丸まって眠る相方を、鉄格子の間から遠く眺めた。どうしてこうなってしまったのだろう。何をどうすればよかったのか、この先どうすればいいのか。
 どうすれば、この世界に許してもらえるのか。

 死ぬに死ねない理由、生き続けなければならない理由がある。それは痛いほどよくわかっている。
 だが、心を支える夢も希望もない。それらは悉く失われてしまった。
 腰と背中の褥瘡に歯噛みしながら、ゆっくりと姿勢を変え、月明かりから逃れるように重い頭を抱えた。

 夢や希望を失わないためには、夢や希望が存在するのが最低条件だろう。
 例えて言うなら、プロ野球選手になりたい少年にとっては、プロ野球が存在しなければならない。それを失ったら、夢自体が成立しなくなる。
 だとしたら、俺達は何を失ったのだろう?
 何かを求めていた筈だ。俺達は何かを必要としていた筈なのだ。
 テレビか?ファンか?それとも金?或いはネタそのものだったのだろうか。

 頭が痛い、傷付いた背中も腰も痛い、血の流れ続ける脚も痛い。
 それ以上に痛いのは内心だった。臓腑が丸ごと揺さ振られるような、全身が毒に満たされたような、自ら我が身を苛む苦痛だった。
 これは罪の痛みなのだろう。月に露わにされてしまったから、こうして罰せられるのだ。

 夢も希望もなく、ただ罪に苛まれ、死ぬことも許されない。
 それは地獄と呼ぶのではなかったか。

 泣き声を上げたら、皆を起こしてしまう。ほんの啜り泣きでも、相方には気付かれる。
 堪える為に、月を見上げた。目を射る程の明るさだった。

―――――

 不意に吹き付けた冷えた風に、菅は白衣の前を重ね合わせた。そろそろ戻らなければならない。
 踵を返したところで小さく咳込み、足を止める。
 口元を拭い、雲間に隠れ始めた月明かりで確かめた。出血はなかった。

 こうして咳が出るのは他者には告げていない。
 原因は言うまでもない。もう長くはないのだ。面白くない奴は溶けて死ぬ。充分承知の上だ。
 だが、自分の価値を決めるのは自分でしかない。
 だから隠している。言ったところでどうなるものでもない。嘆いたところで何も変わらない。“低能力”同士で慰め合うなど真っ平だった。

 そして、過去現在どれだけ低能力であろうと、その人間の価値を決めるのは本人でしかない。菅はそう信じていた。
 此処は俺の世界だ。俺が見聞きし学び、俺の価値観を繋ぎ合わせて作る世界。俺が死ぬまでそれは変わらない。俺が死んだら、この世界は終わる。簡単なことだ。

 何より、まだ当分死ぬわけにはいかないのだ。腕を振り歩調を速めながら、勢い込んで思いを巡らせた。最早一心同体の相方と、出来る限りの事はしておかなければならない。あれもこれも未解決だ。答えの出る問題は解いてしまわなければならない。
 後に遺す者の為では決してない。ただ自らの為だ。人間には存在意義というものがあるのだから。

 内心に啖呵を切って、思わず大きく笑顔を作った。
 唯一と言っていい武器だった、老若男女誰をも魅了する、花咲く笑顔。
 「あのメガネかけた人」「背の高い方の」と同程度の威力を持つ、「あの可愛い男」と言わしめる笑顔。
 そして「あいつは顔が可愛いだけや」と言われてしまう笑顔。

 茶の間に天賦の愛らしさを振り撒いて、自ら散り敷いた上をその歩く事しか出来なかった。
 今や観衆は見当たらない。それぞれの価値観をかざして責め苛む他者は、皆居なくなってしまった。
 「賢いだけ」「可愛いだけ」むしろ久々にそう呼ばれてみたいものだ。堪えることなく笑った。やけに痛快な気分だった。

 今、この世界で価値があるのは、紛れも無い現実だけだ。存在するものだけ、結果だけ。
 つまり某かの結果が出せれば、存在さえ確固であれば…その価値を決めるのは自分なのだ。

 生に苦しみ、死に怯えている者に教えてやりたいものだ、この理知的にして単純で美しい真理を。
 川面に映った月と、自らの顔を見下ろし、菅は一段と笑みを大きくした。白い歯が微かにきらめいた。
 こんな汚水でも、鏡になる。それが陽であれ月であれ、光さえあれば。

 足元の吸い殻を拾い上げた。誰からも愛されたあの可愛い菅ちゃんであれば、許される行為ではない。
 悪戯な笑いで肩を震わせながら、無造作にポケットに投げ込んだ。
 階段を駆け降りる足取りは軽快そのものだった。
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