・喫茶ピエールは定休日
日も暮れようかという頃になってオトウト起きて来る
「おーはよお」エクササイズボールを背もたれにし、太鼓腹にパソコンを乗せてソリティアしている上アニ
「また低温やけどしますよ」パジャマの裾がスリッパの踵に入らないように足を外側に振って歩く
腹筋で起き上がって「何か食うかい」
「あれ」
「下さん買い物だ」
「なんだ、行ったのに」
「ちがうちがう、ほれ、あの、おしゃれスーパーの方」
「ああ、おしゃれスーパーの方か」
「何食う?」
「何時くらいになるって言ってました?」
「言ってなかった」
「じゃあエビフライ」
「よしきた」
スウェットのまま台所へ
そういう何かだらしないの嫌やねんと言う人が居ない時に限られる光景
オトウトもパジャマのまま台所を覗いて「ちくわフライはお断りします」
「どうしてそんなに嫌うかな」
上アニはためらうことなく冷凍食品を取り出す
その間に食パンを2枚電子レンジへ突っ込むオトウト
どうせ食べんねやったらちゃんとした食べ方しょーやと言う人が居ないと二人は押しなべてこんな調子
絞ったテレビの通販番組と油のはぜる音だけ聞こえる
「何か思い出すな、こんなの」
「ですね」
離散よりも前、一人大阪の専門学校へ向かった下アニ
『食の本場だから』というのが理由の全てではないことは二人とも解っていて、でも何も聞かず、それを下アニも把握していた頃
やはりこうやって上アニが冷凍食品を温め、オトウトが無言で食べた頃
互いに掘り返して話したりはしない
過ぎた時間はただそれとして横たわる
上アニの半端にめくれてウエスト部分に乗っている背中の生地をじっと見るオトウト
流しを横目で見て、ジャムの瓶が洗って伏せてあるのを確認し、新しいのの封を切る
瓶を拳で軽く叩いてパンの上に直接出す
皿だけ持ってソファーに体育座り
やがて「おぅい。できたよ」
ツインファミコンの柄にペイントしたトレーに乗せてエビフライと適当にちぎった野菜と割り箸
隣に座った上アニは海老の尾を手でつまむ
「よかったよなあ、俺ら3人で」
「本当に」
「人間がだめになるよなあ」
「まったくです」
食後の薬を飲んで「流しを片付けておかないと」
「あと着替えとけよなお前」
言ったものの二人とも席を立とうとしない
不意にオトウトがテレビの出力を切り替えると、パワプロが2コンのチーム選択待ちになっている
無言でコントローラを取るオトウト
同じく構える上アニ
【帰宅した下アニがぼやき出すまであと2時間】
(おまけクイズ:上アニは今回も首尾よくちくわをオトウトに食べさせることに成功しています。どうやったのでしょう)
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